2012年5月11日金曜日

上質のパスティーシュ The Rutles 「Archaeology」: 地味音楽の小部屋


もう皆さん慣れてるかもしれないけど、今日は長い話になると思うよ。まずは簡単に事実関係の羅列から。76年にイギリスのコメディ番組のためにモンティ・パイソンのエリック・アイドルとボンゾ・ドッグ・バンドのニール・イニスが中心になって結成したビートルズのパロディ・バンドがラトルズ。その後78年にアメリカ向けのより本格的なテレビ番組「All You Need Is Cash」を作成、そのサントラ版として発売されたのが彼らのファースト・アルバム『The Rutles』。そのテレビ番組自体がビートルズの歴史を完全にパロディ化したもので、このアルバムの収録曲も全てがビートルズの何らかの曲のパロディになっている。

 The Rutles 『The Rutles』

元々がその番組のための架空のバンドなので(劇団モンティ・パイソンからのエリックは楽器が弾けず、番組ではビートルズでのポールに相当する役を演じていたが、レコードの演奏には参加していない)、その番組とアルバムが彼らの遺した作品の全てだった。ビートルズのファンや評論家からも大絶賛されたにも関わらず、LPやビデオはすぐ廃盤になり、90年になって大量の曲を追加して別ジャケでCD化されたファースト・アルバム(上の写真)だけが一般的には彼らに触れる唯一の術だった…

…96年までは。
96年といえば、本家ビートルズの未発表曲を2枚組CD x 3種に亘って集大成した『Anthology』プロジェクト真っ盛りの時期。音楽ファンの間でビートルズ熱が再燃していた頃だ。その年の暮れに突然発表されたのが、そんなものがあり得るなんて誰も考えていなかったラトルズのセカンド・アルバム『Archaeology』だった。

 The Rutles 『Archaeology』

『Archaeology(考古学)』というタイトルが本家の『Anthology(傑作選)』のパロディならば、このジャケットも、88年に出た「ビートルズ十数年ぶりの新譜」として発表された『Past Masters Volume One』のパロディ。

 The Beatles 『Past Masters Volume One』


翻訳のプロセスは何ですか?

と、ここまで知ったようなことを延々書いてきたが、僕がリアルタイムで彼らのことを知ったのは実はここから。この『Archaeology』というアルバムを聴いてその虜になり、急いでファースト・アルバムやDVD(これはしばらく後に再発されてから)を買い集めたものだった。

それから11年経ち、廃盤だったこのセカンドアルバムが別ジャケで再発された。基本的に新譜しか取り上げないことにしている僕のブログで、この最高に楽しいアルバムについて書ける機会ができたということだ。

 The Rutles 『Archaeology』

『Past Masters』が既に20年近く昔のアルバムになってしまい、この黒地に白抜きロゴのインパクトが薄れてしまったためだろうか、新装版のジャケは96年版の内ジャケに使われていた地味なメンバー写真に変更。

16曲入りのオリジナル盤に5曲のボーナストラックが追加されている。96年版の日本盤には4曲のボートラが収録されており、レココレ5月号のアルバム評には「ボーナス・トラックが5曲入りながら日本盤ではすでに4曲が入っていたので我々にはあまりおいしくない」と書かれているが、その日本盤のボートラ4曲のうち「It's Looking Good」(ファースト・アルバム収録曲の別バージョン)は今回収録されておらず、代わりにライヴ演奏の「Under My Skin」が入っている。なので、96年版の日本盤を持っている僕のようなファンでも、2曲の新曲(実際には「Under My Skin」は当時のシングルのB面曲だったようだが)が聴けるということだ。ちなみにそれらのボートラのうちの最初の曲「Lullaby」は、わずか30秒という演奏時間とそのナンセンスな歌詞から考えると、これはビートルズでいうと「The End」のパロディとして96年版のUKオリジナル盤にも入っていた曲なんじゃないかと思ってるんだけど。

しかしそれにしても、こないだ書いたティアーズ・フォー・フィアーズの再発版CDもそうだったけど、旧版に入ってたボートラの一部を新版に入れないってのはなんでかね。旧版を中古市場に流出させないようにってことなのか?買い替えじゃなくて買い増しになってしまうんで、ただでさえCDが増えすぎて困っている僕みたいな人には非常に不便なんだけどな。まあ今回のはジャケも違うし、旧版にはちゃんと綺麗な歌詞カードも付いてたから、旧版の全ボートラが新版に収録されていたとしても旧版を売っ払うつもりはなかったけどね。


二次不等式の用途は何ですか

アルバム冒頭の「Major Happy's Up And Coming Once Upon A Good Time Band」はそのタイトルを見ても容易に想像が付くとおり「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」のパロディ。「軍曹」を「少佐」に格上げし、「ペッパー」を語感の似た「ハッピー」に、そしてきっと67年当時に初めてこのタイトルを聞いた人たちは「なんて長ったらしくて変なタイトル!」と思ったに違いないビートルズの曲名のややこしさ感までも引き継いだ(しかも長いだけであんまり大した意味のないところがまたいい!)、タイトルからして実に秀逸なパスティーシュだ。

ビートルズの『Sgt. Pepper's』のアルバムがそうであるように、その曲からメドレーで繋がる2曲目は「With A Little Help From My Friends」を真似た「Rendezvous」(タイトルは似てないけどね)。この曲の歌詞は、『Anthology』プロジェクトで陽の目を見たジョンの未発表曲「Free As A Bird」について、きっとジョンなら他のメンバーにこんな風に言ったんじゃないだろうかと思わせる会話調になっている。この曲に限らないけど、ラトルズの音楽って、ビートルズについて(曲に限らず)沢山の知識を持っていれば持っているほど面白くなる、とても奥の深いものだ。もちろん、そんなマニアックなことまで知らなくたって、「この最初の2曲は『Sgt. Pepper's』の冒頭のパロディだな」ってわかるだけでも楽しいし、もっと極端なことを言えば、ビートルズのことなんて知らなくたって、これだけ彼らの名曲に似せて(単なる物真似でなく)作られたポップな曲の数々は充分に堪能できるはず。

このセカンド・アルバムは映像なし・音のみのプロジェクトということで、エリック・アイドルは不参加。それでもニール・イニスという人もモンティ・パイソン流のギャグセンスを持っているということがよくわかる歌詞もまた最高。例えばちょっと「Nowhere Man」風の3曲目「Questionnaire」では、街頭アンケートの立場でこんなことを歌っている。

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 1.ジャリジャリする 2.半分ジャリジャリする 3.全然ジャリジャリしない

まあ、ここだけ抜き出してもその可笑しさはよくわからないかもしれないけど、このどうでもいい変なものについての質問といい、意味のない紋切り型の選択肢といい、どういう答えであろうが自分はただの質問表なので気にしないという無表情さが面白い。


ジオメトリの線は何ですか

4曲目の「We're Arrived! (And To Prove It We're Here)」は、イントロの飛行機の着陸音のSE(サウンドエフェクト)で「Back In The U.S.S.R.」のパロディだとわかるが、演奏が始まってすぐにメンバーが笑ったりして、一旦演奏を止めてまたやり直す。これは、先述のビートルズ『Anthology』に演奏中にメンバーが笑ってしまっているものや演奏ミスをしてやり直しているものまでが含まれていたことのパロディ。しかしそれをわざわざこの冒頭にSEの入った曲でやるというのが可笑しい(失敗した演奏にSEは被せないだろうが!・笑)。そのギャグがやりたかっただけの曲なんだろうなということがよくわかる歌詞がまた笑わせる(タイトルどおり、「俺たちは到着した!俺たちがここにいるってことを証明するために」なんてことを繰り返してるだけ)。

だめだ、このまま全曲解説してしまいそうだよ(笑)。こんなの読んでるだけの人にはちっとも可笑しくないだろ うから、あと2〜3曲だけにしとくね(まだあるのか、って思った人がいるね?でも延々と全21曲について書くよりはマシでしょう)。

順番はバラバラになるけど、96年版でも07年版でもボートラとして収録されている18曲目の「Baby S'il Vous Plait」は、ファースト・アルバムに入っていた「Baby Let Me Be」のフランス語バージョン。これは、ビートルズが初期のシングル曲をドイツ向けにドイツ語でも録音していたことのパロディ。本家と違うのは、このフランス語バージョンの歌詞は「僕フランス語がわからないから、英語でしゃべってください」とか言ってるだけってこと(笑)

14曲目「Shangri-La」のイントロでちらっと奏でられるメロディがあるんだけど、これはこの96年当時破竹の勢いだったオエイシスの「Whatever」という94年のヒット曲のメロディに聞こえる。でも実はこれ、ニール・イニス自身が73年に発表した「How Sweet To Be An Idiot」という曲のメロディと全く同一。こんなところでこそっと「みんなが好きなあのヒット曲、実は僕の曲のパクリなんだよ」って言ってるみたい。この「Shangri-La」は後半「Hey Jude」風の盛り上がりを見せるんだけど、そこでニールがまたさっきのメロディを(今度は「Whatever」の歌詞付きで)歌うのが痛快。

アルバム本編の最後となる16曲目の「Back In '64」は、そのタイトルから連想できるように「When I'm 64」のパロディ。出だしこそくすっと笑わせる歌詞だけど、これは(ビートルズの時代でもあった)64年を懐かしむしみじみとした歌詞を持った曲。ああ、笑わせるだけでなく、こんなしんみりした気持ちにもさせてくれるんだと、また感心。


さっきも書いたけど、この人たちの魅力って、ビートルズのことをよく知っていれば知ってるほどよりよくわかるんだけど、だからといって敷居が高い音楽じゃない。今さらビートルズ、なんて思ってちゃんと聴いていない人もいるかも知れないけど、逆にこっちから入ってみて、元ネタとしてのビートルズにたどり着くというのもアリかも。ボートラ以上に今回の新装版が魅力的なのは、その値段。今回はEMIゴールドという、EMIの廉価レーベルからの発売なんだけど、上にアフィリエイトしたアマゾンでも1171円。僕はオークランドで新品未開封を700円弱で手に入れたよ。

 The Rutles 『The Rutles』

今回この記事を書こうとしていろいろ調べてて気づいたんだけど、彼らのファースト・アルバムがオリジナルのデザインで紙ジャケで再発されていた。LPに付属していた16ページのブックレット付きだって。僕はもう紙ジャケにはあまり惹かれないんだけど、これは欲しいな。あ、でも音源は今僕が持ってるものと同じで、リマスターもされてないのか。どうせならリマスターしてからLPと同じ曲順にすればいいのに。しかも3192円!『Archaeology』の良心的な価格設定に比べて、何だよこれ。ちょっとなにかとケチがつきすぎて気が引けてしまうなあ。まあでも、自分の持ってるCD/レコードしか写真を載せないという縛りのこのブログに写真を載せてしまったからには、買うしかないか。廃盤になるまでに買って、自分でオリジナル LPの曲順に入れ替えたCD-Rを作ってこのジャケに入れておこうっと。



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